「闇を以て闇を制す」ことについて、大きな「闇」を封じるために、小さな「闇」を使う方法をいくつか紹介してきましたが、本当の代表格は「恐怖・不安」を使うアプローチです。ただ、このアプローチも使い方を誤ると「闇」を大きくするだけになるので、適切に理解して頂けると幸いです。

例えば、「盗みを働くと警察に捕まるから盗みはするべきではない」と人に伝えることは、警察に捕まることに対しての「恐怖・不安」を使って、盗みを働こうとする「欲望」を防ぐアプローチです。これが「恐怖・不安」を使って、大きな「闇」を封じるアプローチです。

「恐怖・不安」は「自分を守りたい」という「欲望」に繋がる性質があります。そういった性質を利用することが、いい形で作用するのであれば、「恐怖・不安」の「アイデア」で何らかの大きな「闇」を封じることは有効です。

特に、「愛」に欠けてしまった人に対しては、こういったアプローチしかできないことが多いです。例えば、盗みの例に置き換えると、「ストレート」な形で「誰かが盗みを働くと、盗まれた方は不愉快な思いをするのだから、盗みは良くない」と教えたとしても、「愛」に欠けている人にとっては何も響きません。何故ならば、「愛」を失ってしまった人からすると、盗まれた人間が経験する苦悩など、どうでもいいと思うからです。

こういった例と合わせて理解しておきたいことが、「恐怖・不安」が故に「闇」を強めてしまうケースです。例えば、「新卒で就職をしないと企業は採用してくれなくなるから、大学を出たらすぐに就職をした方がいい」というアドバイスを誰かがしたとしたら、この「アイデア」は「恐怖・不安」を使って「欲望」や「嫌悪」を強めるケースです。何故ならば、こういった「アイデア」は「自分を守りたい」という「欲望」や「嫌悪」に長く同調させることになるからです。

もし、誰かがこういったアドバイスによって本当はやりたくない仕事に就いたとしたら、その人はやりたくない仕事をやっているわけなので「嫌悪」をよく感じる状態を生きることになります。そして、そういった「嫌悪」と「けど、すぐに会社を辞めたら次の就職先はない」という「自分を守りたい」といった「欲望」の間を揺れ動きながら生きることになってしまいます。こういった生き方は我々の心にとって非常に悪影響を与えますし、そういった「ストレス」を抱えた状態だと、周りの人間にも悪い影響を与えやすくなります。このような意味で、こういった「恐怖・不安」の「アイデア」は大きな「闇」を生み出していきます。

こういうことが見えてくると、良くも悪くも現代の日本が「恐怖・不安」の「アイデア」によって動かされていることがよく分かります。日本人があまり盗みを働かないのは、捕まることを「恐怖・不安」しているからであって、日本人が新卒で会社に就職をしていくのは、就職先に困ることを「恐怖・不安」しているからです。日本人が「恐怖・不安」に弱いからこそ、こういった現実が生まれます。

とにかく、「恐怖・不安」がいい形で作用するのであれば、「闇を以て闇を制す」ことになりますが、悪く作用するのであれば、「闇」を助長するだけです。そういったことを、この二つの例の意味を深く理解して頂けると幸いです。また、この「闇を以て闇を制す」アプローチを使う場合、その使い方が本当にいい影響を与えるのかを徹底的に吟味してから使って頂けると幸いです。

最後に「恐怖・不安」が昔の日本人にとっていい形で影響を与えていた例を挙げたいと思います。昔の日本人は悪さを働くと地獄に行くと信じていました。だからこそ、「地獄に行きたくない」という「恐怖・不安」を以て、強い「欲望」を抑え込んでいたところがあります。しかし、現代は地獄を信じなくなっている時代です。だからこそ、この「恐怖・不安」を使えなくなってしまっていて、このことが大きく悪影響を与えています。

様々な地獄絵図などは、分かりやすく地獄の恐ろしさを人々に伝えるための道具で、「闇を以て闇を制す」ことを促しているものでした。絵画は「恐怖・不安」のイメージを人間に与えられるので、有効な手段だからです。ちなみに、地獄を表現することによって人々の「闇」を封じるという方向性は世界各地で多く行われてきたことで、今でも有効に働いている地域は多くあります。

「恐怖・不安」は基本的に「闇」を大きくすることに使われるものです。ですから、「恐怖・不安」を「光」のために使うことはかなり難しいことです。それは、人間が如何に「恐怖・不安」によって「闇」を強めているのかを理解すればするほど分かります。是非、「恐怖」に関する以下の文章も合わせて読んで頂けると幸いです。

http://junashikari.com/emotion/恐怖について/

ほとんど最悪の手段として、本当にどうしようもない時に、特に「愛」を見失っている人に対して、「恐怖・不安」を使って「闇を以て闇を制す」アプローチを使って頂けると幸いです。