このページでは、楽器の「チューニング」がどのような「修行」に繋がるのかということを具体例を挙げながら解説していきたいと思います。また、下の方では、「自然」が「チューニング」の開発に如何に影響を与えるのかを解説します。


【「修行」と「チューニング」】

音は心に非常に大きな影響を与えるものですし、繰り返し聴く曲などは我々の人格に大きな影響を与えます。そして、「修行」の一つの側面は何らかの優れた精神性を自分自身に定着していくことです。だからこそ、優れた精神性を伝える音と共に生きていくことは、我々がどのような人間になっていくのかという魂の「修行」に良い影響を与えます。

また、音を聴くこと以上に、音を弾く行為は我々の心に大きな影響を与えます。何故ならば、演奏という行為はそこで生まれてくる音に絶えず心を同調させ続けることであり、身体を動かすという行為自体も我々の心の動きを大きくすることを促すからです。

この前提を踏まえて、「チューニング」が如何に我々の心に大きな影響を与えるのかということを理解することが、弦楽器を通した「修行」を実践していく上で非常に重要です。何故ならば、「チューニング」は様々な「神秘」への扉だからです。

このようなことを感覚的に理解して頂くために、具体例を取り上げながら解説していきます。
 

[チェロの場合]

弦楽器は弦の音をどのような音の並びにするのかを決めているわけですが、それが「チューニング」です。例えば、チェロの場合、元々のチューニングは低い音からCGDA(ドソレラ)になっています。

そして、CGDA(ドソレラ)という音を同時に弾いた時、何らかの響き(ハーモニー)を元々持っています。その響きの長所を最も活かした曲が例えば、誰もが聴いたことのあるバッハのチェロ組曲の一番です。
 


それに対して、コダーイ・ゾルターンという作曲家は元々のチェロのチューニングの低音2本を半音下げることを行ない、コダーイのチェロ組曲を作りました。
 


チェロ組曲の一番とは全く印象が異なりますが、この印象の違いはチューニングの違いに依ります。このように、楽器の「チューニング」はその楽器を通して生まれてくる響き(ハーモニー)に大きな影響を与えており、それが演奏者が抱く精神性の違いを生み出します。


[屋久杉琴の場合]

私は屋久杉で作ったライアーを演奏していますが、この楽器が如何に「修行」に有効かということを経験してきました。

チェロの弦が4本であるのに対して、ライアーの弦は非常に多いです。また、チェロと異なり、ライアーは解放弦の音のみで演奏する楽器です。だからこそ、「チューニング」が我々の心に与える影響は非常に大きいです。

例えば、以下の3本の動画は同じ屋久杉琴一台を使って演奏していますが、全く雰囲気が異なります。これは「チューニング」の違いそのものですし、それぞれの「チューニング」が異なる「神秘」へ通じていることは体感して頂けると思います。
 

 

【「チューニング」と「自然」】

上の3本の動画はそれぞれ「山」と「季節」をテーマにしています。一番上の動画は「秋の由布岳」、中央は「冬の鶴見岳」、下の動画は「真冬の富士山」です。

我々の心に大きな影響を与えているものの一つが「季節」と「環境」です。例えば、寒い時期はやはり憂鬱になりやすいのに対して、春が来ると穏やかな精神性を感じやすいですし、都会の中で生きているよりも、豊かな自然の中にいる時の方が我々の心は穏やかになりやすいです。

このような意味で、「季節」と「環境」は我々の心に強く影響を与えているわけですが、「環境」を分ける一つの観点が「山」です。それぞれの「山」は異なる雰囲気を持っており、性質が異なります。特に、山の中で生きるならば、そういった山々の性質の違いの影響を非常に強く受けます。

そして、「季節」毎に「山」は異なる雰囲気を持ちます。そういった雰囲気を捉えようとした結果、これらの異なる「チューニング」が自然と生まれてきました。このような意味で、「自然」が我々に「チューニング」を教えてくれます。何故ならば、自然の持つ気質は「響き」に置き換えることができるからです。

 

【最後に】

自然は様々な「神秘」を持っています。例えば、一つ一つの山は膨大な「神秘」の宝庫であり、その「神秘」をより捉えやすくする手段として「チューニング」はあまりにも大きな可能性を持っています。

しかし、残念ながら、日本の音楽の現場でも修行の現場でも、このような知恵は常識として定着していません。そういった現状を変えるために、重要な点だけに絞ってこの文章を書きました。

ここで取り上げさせて頂いた動画と合わせて、この文章を御活用頂けると幸いです。