「皆、必ず助ける。私を信じて、荷を捨てなさい。」

宮崎駿作品の中で、ナウシカは最も優れた人間です。というのも、ナウシカの「愛」はあまりにも大きく、彼女は様々な「愛」を使うことができる人間で、なおかつ、彼女の「愛」の実践能力はあまりにも高いからです。

そういったことをよく象徴するのが、「恐怖」が故に生きることを放棄しつつあるおじいさん達の心を変えるシーンであって、このナウシカの笑顔の意味でもあります。

この時のおじいさん達は自分自身の「生」のことばかりを考えるが故に「恐怖」を抱いています。ナウシカはそういった構造を変えるために、あえてナウシカ自身の「生」を危険に晒します。

つまり、自身の「生」についての「恐怖」が故に「自分のため」ばかりを考えてしまい「正気」を失っている彼らが、ナウシカの「生」に対する「危機感」が故に「他者のため」を思うことで「正気」を取り戻すことをナウシカは促します。

そして、そういった状態を与えた上で、おじいさん達が「必ず助かる」と思うことで「恐怖」を乗り越えることを促すために、ナウシカは「皆、必ず助ける。私を信じて」という「決意」を伝えます。さらに、「不安」や「恐怖」を断ち切るために、最後は笑顔で微笑みかけることで「安心感」を与えています。

ナウシカは彼らの船を追いかけている時、彼らを「守ろう」とするために、「厳しさ」のある「愛」で追いかけています。しかし、最初おじいさん達は「正気」を失っているが故に言うことを聞かず、ナウシカは彼らの心の状態を変えるためにも、「優しさ」のある「愛」で彼らに接し始めています。

「厳しさ」のある「愛」と「優しさ」のある「愛」の両方を良い形で自分自身の中で充分に養うことは容易ではなく、それらの「愛」の使い分けを見事にすることは更に容易ではありません。しかし、この場面のナウシカはそれを見事に実践します。

また、おじいさん達の心の状態の何が根本的な「問題」なのかを一瞬で明確にし、そういった「問題」の「解決」のために、どのような言葉と感情を相手に与えるべきなのかがすぐ分かるという「賢さ」も人間離れしています。

また、我々人間にとって「他者のため」に自分自身の命をかける行為も容易ではないのに対して、ナウシカは一切迷わずに、彼らを「守る」ために、マスクを取り、自分自身の命を危険にさらします。

このような様々な意味が分かった時、我々はこのシーンを通して、如何にナウシカが優れた人間であるのかが分かるようになりますし、優れた「愛」の使い手は、どのように「愛」を実践するのかを知ることもできます。

ナウシカは、とても大きな「愛」を抱いている人物で、強く、賢く、正しく、美しく、なおかつ、様々な「愛」を使い分けます。このシーンはそれらの全ての要素が表現されているシーンであって、だからこそ、このシーンの意味が分かれば、ナウシカの偉大さが見えてきます。

我々人間が生きていく上で、究極の理想の人間像を知っておくことはとても大事だと思います。それは、我々が歩むべき「道」を教えますし、我々の「未熟」さえも教えるからです。

宮崎駿作品の中で登場する多くの主人公達は、「愛」が大きく、強く、賢く、正しく、美しく、理想的な人間と言えます。しかし、ナウシカ程に様々な「愛」を使いこなす人物は他におらず、そのような意味で、ナウシカは究極の理想の人間と言えます。

そういったことを踏まえた上で、このシーンと我々が向き合いながら生きていくなら、このシーンは我々に多くを教えてくれます。