ここでは「自己肯定欲」について書いていきます。「自己顕示欲」などと同様に、「自己肯定欲」は我々にとって非常に身近な「欲望」の一種です。ですから、「自己肯定欲」について理解を深めることはとても大事です。
 

【「自己肯定欲」とは何か】

「自己肯定欲」とは「自分が正しいと思いたい」という「欲望」です。この「欲望」は多くの人が抱いているにも関わらず、「自己肯定欲」という形で言語化されていないが故に意識されづらくなっています。その対象を表す言葉があれば、その対象を意識しやすくなるので、「自己顕示欲」のように「自己肯定欲」という言葉を使って生きていくことは大事です。

「自己肯定欲」を抱いている時に自分が正しいと思いたい内容とは、自分の考え方や自分の選んだ選択などです。「自己肯定欲」を抱いていると、「自分が正しい」と思いたくなるので、自分が正しい根拠ばかりを探し、自分が間違っている根拠を探したくなくなります。それに対して、自分が正しいかどうかを「問う」姿勢は、自分が正しい根拠と自分が間違っている根拠を平等に探すことができます。

「真実」を見抜く上で大事なことは、自分にとって都合がいい情報であろうと、都合の悪い情報であろうと、その情報を受け入れられるだけの「強さ」を持つことです。「問う」姿勢の背景には「自分が間違っていてもそのことを受け入れられる」という「強さ」があります。逆に、「自己肯定欲」の背景には「自分が間違っていることは受け入れたくない」という心の「弱さ」があります。

このような意味で、「自己肯定欲」と「問い」の根本的な違いは心の「弱さ」と「強さ」にあることを理解して頂けると幸いです。そして、「自己肯定欲」があると、どんどん「真実」が見えなくなっていくことを理解して頂ければ、と思います。
 

【「自己肯定欲」と「甘さ・怠惰」の関係性】

「自己肯定欲」は「怠惰」や「甘さ」に繋がりやすい性質があります。「怠惰」とは「すべきことをしたくない気持ち」であり、「甘さ」とは「すべきことをしなくていいと判断したくなる気持ち」です。

「自己肯定欲」があると「自分が正しいと思いたい」と思うが故に、「自分が間違っていることを考えたくない」という「怠惰」に繋がりやすくなります。そして、そういった「怠惰」が「自分が間違っている可能性は考えなくてもいいと思いたい」という「甘さ」に繋がっていきます。

「怠惰」も「甘さ」も「楽」を求める気持ちだからこそ、より自分が「楽」になる方向性へ向かおうとし、その結果として「考えたくない」という「怠惰」から「考えなくてもいい」と判断する「甘さ」に堕ちます。「すべきことをしたくない(怠惰)」と思うよりも「そもそもする必要がない(甘さ)」と思うことの方が心は「楽」だからです。

心に「弱さ」を持つ人は「楽」を求めやすいところがあります。「強さ」があれば苦しいことも乗り越えられますが、「弱さ」があると苦しいことは乗り越えられないからです。「弱さ」を持っていると「自己肯定欲」を抱きやすくなり、「弱さ」を持っていると「楽」を求めやすいからこそ、「自己肯定欲」は「甘さ」や「怠惰」に通じやすい性質があります。

とにかく、「自己肯定欲」も「甘さ」も「怠惰」も原因は心の「弱さ」です。ですから、これらの罠に堕ちないために、心に「弱さ」を持たないことが大事です。
 

【最後に】

「自己肯定欲」は自分が正しいと思いたいからこそ、自分が正しい根拠ばかりを探すのに対して、「不安」や「疑い」は自分が間違っていると思えるからこそ、自分が間違っている根拠ばかりを探します。両者に共通なのは、バランスが悪いということです。こういったバランスの悪さを持っていると、「真実」は見えなくなっていきます。

「問い」の姿勢は自分が正しいことも自分が間違っていることも、バランスよく考えられるので、自分自身が正しいかどうかを考える時は、是非「問い」の姿勢を大事にして頂ければ、と思います(「問い」の姿勢とは、言い換えると「水の気持ち」です)。