自分が金持ちだったら、才能あるアーティストや大事なアートスペース・ライブハウスに金をバラまく状況ですが、今の日本社会、そんな話聞きません。こういう時、つくづく金持ちなりたいと思います。

以前、ある医師が見知らぬ高校生に対して航空券代数万円を負担してあげたことがニュースになっていたことがありましたが、そんな当たり前の「善」がニュースになっていたことが、自分としては残念でなりませんでした。この国は、持つ者が持たざる者に与えることが当たり前ではないことを感じたからです。

「芸術や文化が何故大事なのか?」ということがちゃんと教育で教えられていない世の中だからこそ、政府もアーティストや文化施設への経済的支援を優先しません。

だから、今アーティストがよく分かるべきことは、「芸術や文化が何故大事なのか?」ということを、社会全体でちゃんと論理的に理解し、それを常識化することの重要性です。

そういうことを常識化していく上で最初に必要なことは、アーティストがちゃんとそれを即答で説明できるように、日々「問い」を持ってアートと向き合うことです。そして、それをよく説明していくことです。

逆に言うと、そういうことをちゃんと自分なりに説明できないアーティストは少なくないと思います。そういうことの結果として今があります。

最近はアーティストの政府に対する非難が目立ちますが、我々アーティストの振る舞い方の結果として今があることを、アーティストはもっと分かるべきかもしれません。

世の中からすると、アーティストの人々はやりたいことをやっているだけの人々に見えるのかもしれません。アーティスト自身もアートをやりたくてやってるだけの人が多いのかもしれません。

「アートが何故大事なのか?」という「問い」に明確な答えを持たない限り、「何故アートをやるべきなのか?」という「問い」にも答えられず、「自分はアートをしたい」を「自分はアートをすべき」に変えられません。

そのアーティストがそのアーティスト自身のために、ただやりたくてやっていることに対して支援が無いのは当然です。それに対して、そのアーティストが社会のために、やるべきことをやっているのであれば支援されるべきです。

そういうことを、アーティストは問い直すべき時期が来たのかもしれません。

日本の文化度は年々下がっています。こんな時代にお金になるアートをやろうとすると、アートとしての純度を下げざるを得なくなり、その結果として、日本の文化度はますます下がります。そういう悪循環の成れの果てが今です。

ですから、本当の意味で日本のアートのレベルを上げていく上で大事なことは、政府やお金持ち(パトロン)からの支援によってアートをやっていく方向性です。これは特別なことではなくて、ダヴィンチといった様々な大巨匠が大巨匠になり得た背景にさえ、パトロンの存在があります。

そういうことを促すためには、それぞれのアーティストがアートの重要性をしっかりと人々に説明していくのと並行して、社会のためになるようなアートを生み出す努力をしていくことです。

これが、日本のアート界における一つの正しい道です。

私としても、何故アートが大事なのかといったことや、アートの持っている深い意味を、死ぬまでこの社会にシェアしていくつもりですから、アーティストの皆様も表現活動に加えて、そういった努力も実践していって頂けると幸いです。

アートは何らかの精神性を表現するものです。だからこそ、アートは何らかの精神性を他者に教えることを促す道具です。そして、鑑賞者はそこで学んだ何らかの精神性と共に生きていきます。

ですから、社会全体でアートが豊かになる時、社会全体の精神性が豊かになります。そして、豊かな精神を持った社会においては、良い出来事がたくさん起こり始めます。

逆に、社会全体でアートが貧しくなる時、社会全体の精神性が貧しくなります。そして、貧しい精神を持った社会においては、悪い出来事がたくさん起こり始めます。

こういう構造があるからこそ、アーティストは間接的に社会と世界に大きな影響を与えていますし、アートを貧困にするわけにはいきません。